国東市の未来像 その2
終の住処(提案/ついのすみか)
この国は世界に先駆けて超高齢化社会に突入しました。40年後は日本の総人口の4割が65歳以上になるという予測です。
「終(つい)の住処」の問題はこうした背景から生まれてきました。終の住処とはすなわち死に場所のことです。そしてそこで自分はどのように死にたいのか、さらには死んでから自分が何処に眠るのか、つまりお墓の問題に繋がります。
すでに都市部ではお墓問題は深刻な状況にあります。その昔、お墓は村落が共同管理していました。近代以降、お墓は家制度の中で管理されることになります。そして現在、共同体も家も解体されていく過程で従来の墓を守っていくこと自体が困難になってきました。自分がいなくなったら誰が先祖の墓を守るのか、そして自分の墓はだれが守ってくれるのかという不安は現代人の誰もが抱える問題です。とはいえ子供たちに面倒をかけたくない。まして今後単身世帯がますます増えていく現状でこの問題はいまだに出口が見つかりません。
お墓問題は私たちの生活様式に直結した私たち自身の「生」の問題であり、社会構造の問題なのです。良くも悪くも宗教からの縛りが希薄なこの国に住む私たちであるからこそ、超高齢化社会の入り口でさっそく対面しなければならない問題になってきたのです。
国東地域はこの社会問題に対して一つの解を提供することができます。
私が三年前に提案した「時間の庭プロジェクト」は国東半島に国内最大規模の樹木葬による庭園型墓地を計画するものです。そして世界で初めて「死」をテーマに据えた高福祉都市の計画をこの国東半島において構想するものです。プロジェクトの概略は次のようなものです。
「時間の庭プロジェクト」
この墓地はこれまで人が森を切り開いてできた、造成された土地のうえに建設されます。かつての用途として採算があわなくなった土地はこの国にたくさん放置されています。これは戦後の高度資本主義社会が残した負の遺産です。私たちはそこに故人の遺灰を埋葬します。遺灰は土中の微生物が分解し、植物の栄養となって自然のなかで循環します。故人が埋葬された場所にいわゆる墓標はありません。そこには生前に故人が好きだった樹木や草花が植えられます。そして遺族には埋葬地点の緯度と経度が記されたプレートが渡されます。その場所はGPSによって正確に記録され故人の情報とともにサーバー上(ブロックチェーン)で管理されます。お墓参りに公園を訪れる人たちはスマートフォンなどを使ってその場所まで誘導されます。地上には樹々が繁り、草花が咲く風景が広がります。園内には式典用のホールがあり、レストランがあり、ゲストハウスがあります。
そしてこの庭園墓地は数百年後にはふたたび森に帰って行きます。
お墓の大きさも生前の権威もここではいっさい関係ありません。祈りの場であり、鎮魂の場としての庭園墓地。これは国東半島でしかできないことかもしれません。そして此処に入るのは新たな死者だけではありません。いま全国で「墓じまい」(維持できなくなった墓を更地に戻し遺骨を別の場所に移す)がされつつある、かつて他の場所に葬られたお骨を受け入れ供養します。2018年時点の墓じまいの数は全国で11万件を超えており、さらに増大傾向にあります。従来のお墓の形態が現在の社会構造に合わなくなっているということです。
どんな人もどんな宗教も、そして無縁者もすべてを受入れ、死者たちを等しく見守るシステムを構築します。
(step1)交流人口の増加
この施設を利用するのはもちろん地元の人たちだけではありません。県内はもとより大都市圏からの入園希望者が多数を占めます。契約者の遺灰はこの庭園墓地に運ばれ埋葬され弔われます。希望者には決まった日に墓前でお祈り(お経)が捧げられます。また年に何度か墓地合同供養が行われます。遺族はその様子を遠隔地からリモートで見守ることができます。
ある契約者の遺族たちは空港を利用して命日にお墓参りに訪れます。午前中は季節の花が咲く庭園内をゆっくり散歩してから園内のレストランで会食(法事)をします。市内のホテルに一泊して次の日は朝から国東半島の寺院や旧跡をめぐります。そして夕方、帰りの飛行機の中で考えます、自分も死んだらこの国東半島の地に眠りたいと。大都市圏と国東市の間の交流人口が年々増加してゆきます。
(step2)移住者と経済
ある契約者夫婦は自分たちがお互いの死を看取る場所としてこの国東半島を終の住処にすることを決め移住します。いずれ自分たちが永眠することになる土地と風景を身近に眺めながら穏やかに死を迎えたいからです。彼らは古民家を買い取りリフォームし、お互いに身体が動かなくなるまでは、と思い定めそこで暮らし始めます。そのようして高齢の移住者が増えてゆきます。
介護・福祉施設や終末期医療の需要が急速に高まります。国東市民病院を中核として市内の地元事業者を中心にした医療・福祉のネットワークが強化されます。新たな事業者の進出・誘致もあるでしょう。それとともにさまざまな「死」に関連する問題が大学や各種研究機関を交えて総合的に研究されるようになります。医療、科学、哲学、宗教、心理学など分野を横断した研究です。そうして国東市において「死」を中心テーマとした産学官共同のチームが発足し、国東市は国内初の医療福祉行政特区となります。
介護福祉施設の拡大はもちろん、介護関連製品・設備・住宅、介護ロボット、関連ソフトウェアの開発事業者、終末医療の研究機関、介護福祉人材の育成機関などが次々と国東に集まってきます。ITや製造業を含めた介護福祉関連事業のコンプレックスです。
関連事業に携わる若い人材が国東市に増えてゆきます。専門の教育機関も誕生し、そこに学ぶ学生も市内に暮らすようになるでしょう。
仕事が増え、街に活気が戻ってくるのと同時に自治体の税収が上がります。それをどこに使うのか。子どもたちのために使うのです。
・・・その3につづく